「勝てばいい」では続かない。スポーツにおける勝ち方と指導の視点

指導の悩み

その勝ち方は次につながる?

先日の公式戦で、忘れられない光景を目にしました。
あるチームが圧倒的に点差をつけて勝っていたのですが、控え選手を出すこともなく、主力をそのままコートに残し続けて相手を攻め立てていました。
点差は開く一方。
相手チームの選手たちは試合中にもかかわらず、戦う気力を失っていました。

「勝てばそれでいい?」
「相手はスポーツを嫌いにならない?」
「もし自分が同じ立場だったら、どう感じるだろう?」

たくさんの疑問が浮かびました。
勝つことは大切です。でも――勝ち方は“何でもいい”のでしょうか?

本記事では、将棋棋士・米長邦雄さんの著書『人間における勝負の研究』を手がかりに、スポーツにおける「勝ち方」と指導者がどう向き合うかを考えてみます。


「勝てばいい」では続かない理由

勝負の世界では「勝つこと」が強調されます。
しかし、勝ち方を間違えると次の勝利が遠ざかることがあります。
たとえば——

  • 相手が「絶対にこんなチームには負けたくない」と復讐心を燃やす。
  • 相手を見下す態度が、恨みを残す。
  • リスペクトを欠いたふるまいが、相手のモチベーションを刺激する。

一時的には気持ちよく勝てても、それは長期的に「次に狙われるチーム」になることを意味します。
逆に、相手に「このチームに負けても仕方がない」と思わせられる勝ち方は、敬意を残し、次も勝てるチームにつながります。


勝ち方は未来への投資

試合にかかわっているのは、何も相手チームだけではありません。
審判や観客の中には、来年チームに加入するかもしれない選手や保護者がいることもあります。

「こういう雰囲気のチームには入りたくないな」
そう思われてしまったらどうでしょうか。
たとえその日のスコアでは勝っても、チームとしての信頼や魅力を失うことになります。

また、練習試合でも同じです。
「あのチームとは練習試合したくない」と言われてしまうと、成長の機会を自ら手放すことになります。
短期的な勝利を追うあまり、長期的な“つながり”や“信頼”を失ってしまう
それが、勝ち方を誤ったときに生じる最大の副作用です。

勝ち方の美しさは、チームの未来を支える投資でもあります。
だからこそ、勝利を積み上げたいチームほど「どう勝つか」を大切にすべきなのです。

<div class="hint-box">
  <div class="hint-title">✅ チェックリスト</div>
  <ul>
    <li>試合中、相手や観客にどう見られているかを意識してみる</li>
    <li>「あのチームとはもう一度やりたい」と思われる行動を1つ挙げてみる</li>
    <li>勝ち方とチームの信頼について考えてみる</li>
  </ul>
</div>

『人間における勝負の研究』に学ぶ勝ち方の美学

将棋棋士・米長邦雄さんは著書『人間における勝負の研究』の中で、勝負を「人間を映す場」として捉えています。

  • 勝ち方にこそ人間性が現れる
  • 勝つことよりも「どう勝つか」に価値がある
  • 相手に「負けても仕方がない」と思わせる勝利こそ、美しい

これは将棋だけでなく、スポーツやビジネスにも通じる普遍的な視点です。
「勝つこと=ゴール」ではなく、「勝ち方=チームのあり方」として捉えることで、指導の基準が大きく変わります。

米長さんはこうも述べています。

「一つひとつの勝負に勝つことも大切ですが、その集積が人生における最終的な勝利に直結するとは限らないからです。」

この言葉は、勝負を通じて“人を育てる”スポーツ指導そのものを表しています。
勝ちの積み重ねの先に何を残すか――その問いが、チームの成熟度を決めるのかもしれません。

<div class="hint-box">
  <div class="hint-title">✅ チェックリスト</div>
  <ul>
    <li>「どう勝つか」を選手に語ってみる</li>
    <li>自分の勝ち方を振り返って、その人間性を意識してみる</li>
    <li>「この相手に負けても仕方がない」と思わせられるチームになっているか考える</li>
  </ul>
</div>

スポーツ現場で実践できる“爽やかな勝ち方”

理念だけでなく、具体的な工夫も可能です。
大差がついた場面や試合の終盤で、以下のような方法を取り入れてみてはいかがでしょうか。

大差がついたときの采配

実際に現場では、私自身も次のような工夫をしています。

  • 控え選手を積極的に起用する
  • ドリブルをせず、パスだけでプレーするように指示する。
  • ディフェンスのプレッシャーを少し減らす。
  • 自分たちのプレーにあえて制限を設け、“難しくする”ことで緊張感を保つ。

もちろん、相手へのリスペクトが前提です。
あからさまに手を抜くようなプレーではなく、自分たちの課題に直結する制約を設けることで、
相手を尊重しながら成長のチャンスに変えていきます。

試合後のふるまい

  • 相手チームへの敬意をもって声かけをする
  • 試合中の対応や成長、闘う姿勢に焦点を当てる
  • 次も戦いたいと思える雰囲気を残す

こうした小さな工夫が、チーム文化を形作り、相手からのリスペクトを集めます。

<div class="hint-box">
  <div class="hint-title">✅ チェックリスト</div>
  <ul>
    <li>大差がついたときに、相手を尊重した采配をしてみる</li>
    <li>「手を抜く」ではなく「制約をかけて成長する」をやってみる</li>
    <li>勝ったあとのふるまいについて、考えてみる</li>
  </ul>
</div>

まとめ|勝利は一瞬、勝ち方は記憶に残る

「勝てばいい」という考え方は短期的な成果をもたらします。
しかし長期的にチームが成長し続けるためには、勝ち方の美学を意識することが欠かせません。

  • 相手に復讐心ではなく敬意を残す
  • 相手が「また戦いたい」と思う勝ち方をする
  • 指導者がその価値観を伝え、文化として根づかせる

勝利は一瞬の結果にすぎません。
けれど、勝ち方は選手や相手チームの記憶に残り、未来の勝利を左右します。

あなたのチームの「勝ち方」について考えてみてください。


書籍紹介

米長邦雄『人間における勝負の研究』
将棋という極限の勝負から、人間の振る舞いと勝ち方の品位を考える一冊。
「勝ち方に人間性が出る」という視点は、スポーツ指導にも深い示唆を与えてくれます。


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