選手に言葉が届かないのはなぜ?|伝わる指導者の距離感とは

コーチのあり方

集合をかけて、選手たちの前に立つ。
自分が思っていることや感じていることを話す。
ちゃんと聞いてくれている。目も合う。うなずきもある。

でも、壁を感じる気がする。
話せば話すほど、選手たちが静かになっていく。

そんな経験、ありませんか?

私は、何度もありました。
正しいことを言っているはずなのに、なぜかチームとの間に壁がある。
長い間、その理由がわかりませんでした。


正論は、「やらなければならないこと」を増やすだけ

コーチが正論を言うたびに、
選手の頭の中に、ToDoが一つ追加されます。

「声を出せ」と言われる。→「声を出さないといけない」が増える。
「仲間を助けろ」と言われる。→「助けなければいけない」が増える。
「もっと考えてプレーしろ」と言われる。→「考えなければいけない」が増える。
そして、技術的なポイントも含めてプレーしていく。

一つひとつは正しい。でも、積み上がっていくのは「やらなければならないこと」の山です。

「やらされている」状態では、自分で考えて動く力は育ちません。

指示を待つ。言われたことをやる。コーチが見ていないとやらない。
そういうチームになっていくのは、選手の問題ではなく、コーチの関わり方が生み出している構造なのかもしれません。

だからこそ、正しいことを言えば言うほど、選手の「自走する力」は少しずつ削れていく。
自分で考えてプレーをしてほしいはずなのに、コーチングによってそうではなくなってしまう。

正論は、やらなければを積み上げる

「正しいこと」を言うのは、「あなたたちは間違っている」と言うことと同じ

正論には、もう一つ見落としがちな問題があります。
正論が「正しい」とするならば、それを聞いている選手たちは
「間違っている」と間接的に言っていることと同じです。

言葉にはしていない。でも、正論を言うたびに、選手たちは自分が間違っていると受け取る。
コーチが「正しい側」に立って話す。選手たちは「正されるべき側」で聞く。
そのたびに、小さな上下関係が生まれる。小さな否定が積み重なる。

集合して話すときに感じていた「壁」の正体は、この小さな否定の結果かもしれません。
選手たちは聞いてくれている。でも、心の奥で少しずつシャッターを下ろされる。
「また怒られるのかな」じゃなくても、「また直さないといけないのかな」


一緒にやってみたら、選手が変わった

あるとき、試してみたことがあります。
集合して話すのをやめて、選手と一緒にプレーしてみることにしました。

そうすると集中力が違う。一生懸命さが違う。練習への向き合い方が、明らかに変わりました。

選手たちが「楽しそう」で集中している。

チーム全体の空気が軽くなって、練習そのものに活気が出てくる。
あの感覚は今でも覚えています。言葉で届かなかったものが、一緒に動くことで届いていた。


でも「一緒にやること」も、答えではなかった

しばらく続けていると、気づいたことがあります。

「一緒にやる日」と「やらない日」で、チームの雰囲気が全然違う。

一緒にやらない日は、なんとなく元に戻ってしまう。
一緒にやることが「特別なこと」、つまりイベントになっていたんです。

そして、もっと根本的な疑問が出てきました。

試合は、一緒にできない。
選手だけがコートに立つ。コーチはベンチにいる。その場面で、自分で判断して動けなければ意味がない。

「一緒にやることで、かえって自走する力を奪っているんじゃないか。」
「ずっと自分も一緒にプレーすることもできない」
そう思い始めたとき、自分がやっていることの意味を、もう一度考え直さないといけないと感じました。

一緒にやること自体が、また別の課題を作ってしまっていました。


正しいことを「言う人」より「している人」が信用を積み上げる

正論も、一緒にプレーすることも、いいところと悪いところがある。
そのちょうどよいところを探していくのがいい。
若いコーチは一緒にプレーすることを多くしてもいい。
プレーで語れるなら、選手も刺激を多く受ける。

選手の経験がないコーチなら、熱心に選手を観察している。声をかけている。一緒にいる。
そして、パス出しだけでも練習に参加する。ダミーのディフェンスに入ってみる。

座ってぼんやり見ているより、コートの周りで声をかけ、練習に参加するコーチの方が、選手に伝わるものがある。

言葉の「正しさ」ではなく、その人の「在り方」を、選手はずっと見ています。

何を言っているか、ではなく、どう在るか。
それが積み重なって、信頼になる。そう思うようになりました。


まとめ

正論は正しい。一緒にやることも、意味がある。
でも、どちらか一つだけではうまくいきませんでした。

「このチームの今に合った距離感」はコーチと選手が様々である以上、チームによって違います。

チームは日々変化している。選手も変わる。シーズンも進んでいく。
だから、自分はこれだ!と思って、一つのことをやり続けるよりも、
「今のこのチームに、自分はどう関わるか。」

皆さんのチームに合う関りを、見つけていってください。

インフォグラフィック:記事のまとめ

参考図書

嫌われる勇気

アドラー心理学をベースに、対人関係を「課題の分離」という視点で捉え直す一冊。「あなたの課題」と「わたしの課題」を混同しないことが、人間関係を楽にする鍵だと説く。コーチとして「どこまで関わるか」を考えるときに、何度も立ち返りたい本。


WHYから始めよ!

「なぜやるのか」を伝えることが、人を動かす出発点だと説く一冊。正しいことを命令しても人は動かない。しかし「なぜ」が腑に落ちたとき、人は自分から動き始めます。


元祖プロコーチが教える育てる技術

バスケットボール界の伝説的コーチ、ジョン・ウッデンが語る育成の哲学。「勝敗より準備を」「正しいことをすることが、正しいことを言うことより力を持つ」直接伝わる言葉がたくさんあります。コーチの「在り方」を問い直したいときに手に取る本。


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・コーチングの実践方法|選手が動き出す”問い”と課題の与え方
「正しいことを言っているのに動かない」と感じたとき、問題は”伝え方”より”問いの立て方”にあるかもしれません。選手が自分で考えて動き出すための問いの使い方を、具体的な場面で解説しています。正論をどう渡すかに悩む方に、特に読んでほしい一記事。

・コーチングの鍵は信頼にあり!選手との関係を築く具体的行動とは
正論が届かないとき、多くの場合は「関係」が先に必要です。信頼は言葉より行動で積み上がるもの。選手との距離をどう縮めるか、現場で実践できる具体的なアクションをまとめています。

・コーチとしての心がけ|育成年代の指導で私が大切にしていること
「何を言うか」より「どう在るか」。この記事で触れたコーチの在り方について、さらに深く掘り下げた一記事です。育成年代の指導を続ける中で気づいた、指導者としての軸となる考え方をまとめています。

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