練習中、ミスをした選手に「次いこう!」と声をかけても、なかなか戻ってこない。
一つの失敗が連鎖して、守備にも戻れず、プレーが雑になっていく。
「ああ、これは引きずってるな…」と感じても、コーチとしては“声をかける”ことしかできない。
自分がプレーヤーだったときは、失敗してもあまり引きずらないタイプでした。
夢中になってプレーしているうちに、気がついたらミスのことなんて忘れている。
だからこそ、「失敗を引きずる子の気持ち」が、正直よくわかりませんでした。
「次!次!」
「次があるよ」
「切り替え!」
何度もかけてきた言葉。でも、それだけでは変わらない選手も多い。
立ち直る時間を与えるために、ゲームからいったん離れても、余計にへこむだけで効果がない。
そう気づいたとき、コーチとして考えました。
“次に進めなくなっている子”に、行動から寄り添う方法はないか?
失敗から立ち直れない子が増えている
最近、「失敗から立ち直れない」子が増えてきていると感じます。
攻撃中は元気なのに、ミスをすると守備にも戻れない。
一つの失敗でプレーが崩れ、連続してミスしてしまう。
そして、挑戦できなくなる。
これはスポーツの中だけの話ではありません。
今の子どもたちは、そもそも失敗する経験が少なくなってきているのでは?
だからこそ「水に流す」サインには意味がある
子どもの頃、親と手をつないで歩いていたとき、転ばないように支えてもらっていました。
でもそのうち、親の手を離れて、自分で転びながらバランスを覚えていきます。
こけて、泣いて、また立ち上がる。
その繰り返しが、「立ち直る力」になっていました。
でも今は、危ないところに近づけず、失敗しないように先回りされ、
あらかじめ“成功するように設計された経験”ばかりが増えている。
だから、こけること・失敗することを経験していない子が少しずつ増えてきている。
だからこそ、スポーツの現場で、
失敗しても「大丈夫」と言ってまたやれる経験を、意識的に作っていく必要がある。
その第一歩として、私のチームで取り入れたのが――
“水に流す”というサインでした。
『ダブル・ゴール・コーチ』との出会い
このアイデアのきっかけは、ジム・トンプソンさんの著書
『THE DOUBLE GOAL COACH(ダブル・ゴール・コーチ)』との出会いでした。
この本では、「失敗してもいい。大切なのはそこから何を学ぶか」という考えのもと、
失敗から立ち直れるチーム文化づくりがいくつも紹介されています。
その中のひとつが、「失敗したときの切り替え行動をチームで決めること」でした。
実際に取り入れた「水に流す」サイン
私のチームでは、こんなサインを試してみました。
水に流す動作(サイン)
こぶしを握って上下に動かす(古いトイレのレバーのような動き)
最初は照れながらも、やってみると笑いも起こり、空気がやわらぎました。
自分で使ってもいいし、仲間に向けて「水に流そう」と伝えることもできる。
“気持ちを切り替える方法”が目に見えるだけで、選手たちの反応が変わりました。
やってわかった3つの効果
① 落ち込みすぎなくなった
サインを使うことで、「もうダメだ」と思い詰める時間が明らかに減りました。
自分でやっている選手は、少し照れ笑い。
気持ちを整理して、次のプレーに集中しやすくなったのです。
② 「失敗はOK」という空気が生まれた
これは、ミスをした選手に対して、周りの選手がサインを送ったときに起こる変化です。
試合中、ベンチで並んだ選手たちが一斉にやっていたときには、チームの一体感がより強く感じられました。
「失敗してもいいから、またプレーしよう」という空気がチームに広がっていきました。
③ 笑顔が戻った
サインを受けて、思わず笑顔になる。
プレーの硬さが取れて、リラックスした良いプレーが増えていきました。
「水に流したら反省しなくなる?」という疑問
「感情を流してしまったら、失敗を学ばなくなるんじゃないか?」
そんな心配の声もあるかもしれません。
でも、実際は違いました。
選手たちは、感情は流しても、プレーの内容はしっかり覚えています。
落ち着いてから振り返ったり、次のプレーで成功する方が、学びも深まっていきます。
こんなチーム・選手におすすめです
- ミスに敏感な、まじめな選手が多い
- 落ち込みやすく、空気が重くなりがち
- 「切り替え!」と声掛けが指導の定番になっている
そんなチームに、“行動で切り替える”方法がひとつあるだけで、
選手の表情やプレーが、大きく変わっていきます。
最後に:失敗を、奪わない
スポーツには、明確な失敗があるからこそ、明確な成功もある。
そのどちらも経験できるのが、スポーツの価値だと思います。
失敗を責めるのではなく、
成功だけを与えるのでもなく、
そのあいだで「立ち直る力」を育てていきたい。
それが、コーチとしてできる大切な関わりの一つだと、私は思っています。
今回参考にした本
『THE DOUBLE GOAL COACH(ダブル・ゴール・コーチ)』
著:ジム・トンプソン
失敗への向き合い方、チームづくり、選手との関係性など、育成年代の指導に役立つヒントが詰まった一冊です。
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