戦術は覚えなくていい。1分の図示と発展で、5人で戦えるチームをつくる

1対1や2対2は、バスケットや他の球技において欠かせない練習です。
個人の技術や判断力を高めるうえで、大切な土台になります。

ただ、そこから自然にコンビネーションプレーが生まれてくるかというと、
特に初心者であるほど、そう簡単ではありません。
「1対1はできる」けれど、なぜかチームでの動きがよくなっていかない。

まず、チームで共通したプレーのアイデアを持つこと。
そして、そのアイデアを味方とタイミングを合わせて実行すること
この二つがそろうと、一気にチームが連動したプレーになっていきます。
ただ、ここがかなり難易度の高い部分です。

だからこそ、まず
コンビネーションプレーのアイデアを、チーム共通のものとして持っておくこと
が必要になってきます。

すると、次のような疑問が自然に出てきます。

  • 1つの動きだけをずっとやればいいのか?
  • コンビネーションはどうやって練習すればいいのか?
  • 何をもって「いい練習ができている」と言えるのか?

この記事では、
そうした疑問に対して、
私が実際に取り組んでいる 「1分の図示と短い発展を繰り返す練習」 をもとに、
考え方と実践を整理していきます。


育成年代で“一つの戦術をやり込む”ことの落とし穴

プロの世界では、戦術の遂行力が重要になります。
決められたプレーを、決められたタイミングで、正確に実行できる。
その再現性の高さが、試合に出られるかどうかを左右します。

一方で、育成年代は前提が少し違います。

身体も、技術も、経験も発展途上にある中で、
同じ戦術を長い時間かけて「できるようになるまで」やり続けることが、
必ずしも最善とは限りません。

確かに、その戦術だけを見れば、遂行力は上がります。
動きは揃い、形も整っていきます。
勝ちに近づきやすいのも事実です。
ただ、その代わりに起こりやすいのが、
「それ以外の場面で何をしていいかわからなくなる」状態です。

チームとして新しい戦術を取り入れたとき、
試合中にこれまでやってきた形が使えなくなったとき、
あるいはカテゴリーが上がって、
求められるスピードや判断の質が変わったとき。

そうした場面で、
「このアイデアのとき、自分は何をすればいいのか分からない」
と止まってしまう選手が出てきます。

これは能力が低いからではありません。
一つの正解を“深くやり込む経験”が中心になりすぎた結果、
状況に応じて考え、適応する経験が不足している
だけです。

だから私は、
育成年代では「遂行力そのもの」を高めるよりも、
多様なプレーのアイデアに触れ、
それを味方とタイミングを合わせて実行する経験
を重ねることを大切にしています。

戦術を覚えさせるというよりも、
新しい戦術が出てきたときでも、
相手の対応が変わったときでも、
「じゃあ、次はどうする?」と前に進める選手になってほしい。

そのためのコーチングとして、
一つの戦術を完成させることよりも、
短い時間で多様なアイデアを扱い、
チームで動く感覚を積み重ねること
を選んでいます。


1分図示 → 数分プレー → 発展というサイクル

私が行っている戦術練習の基本は、とてもシンプルです。
「1分で図示し、すぐプレーさせ、次の図示で発展させていく」
このサイクルを短い時間で回していきます。

狙いは、戦術を覚えさせることではありません。
プレーのアイデアをチームで共有し、それをタイミングよく実行する感覚を育てることです。


④-1 図示(1分):アイデアを共有する

図示にかける時間は、およそ1分です。
ここで細かい動きや順番を説明することはしません。

共有したいのは、まずは人の動きだけです。キーワードを話しながら、書いていきます。

  • このプレーでどんなアイデアを使いたいのか
  • ボールと人がどういう関係になるとチャンスが生まれるのか

という説明は、やってみた後の付け足したいことを1つか2つ選んで、
「ここで人とボールがこう関わると有利になる」
というイメージを、チーム全体で共有します。

図示の段階では、まず「見て、やってみる」ことに重点を置き、
その中で、ポイントを作ったり合わせていく方向性で行っています。
まずやってみないと、選手は目と耳からの情報だけでパニックになってしまいます。
やってみながら“こういう考え方がある”という共通理解を持てるようにもっていくとスムーズです。


④-2 即プレー(数分):お互いを感じながら動けるかを見る

図示が終わったら、すぐにプレーに入ります。
ここで私が見ているのは、
「形が合っているか」ではありません。

見ているのは、

  • 味方の動きと合わせようとしているのか
  • パスやカットのタイミングを感じ取ろうとしているか
  • お互いの意図を探りながら動けているか

という点です。

この段階では、失敗しても止めません。
多少ズレていても、そのまま続けさせます。

なぜなら、
タイミングは“止めて修正”するより、
動いている中でつかんでいくもの
だからです。

「お!合ってきたな」という瞬間が出れば十分です。
その感覚を持ったまま、次の段階に進みます。


④-3 次の図示でどんどん発展させる

プレーを数分行ったら、
もう一度集めて、次の図示を入れます。

ここで扱うのが、戦術の「表と裏」です。

  • まずは表の狙い(最初にやりたいこと)
  • それが止められたとき、次はどこが空くのか
  • 表の動きをおとりにして、どう次の展開につなげるか

このように、
1つのアイデアを軸に、発展だけを少しずつ加えていく形を取ります。

ディフェンスがついてくると、
一人が正しい判断をしても、それだけでは成立しません。
味方がその判断に反応し、動きを合わせてはじめてプレーになります。

だからこそ、ここで強調したいのは、
「一人では成立しない」という感覚です。

  • 誰かが止められたら、次は誰が生きるのか
  • その変化に、味方が気づけるか
  • チームとして同じタイミングで動けるか

こうしたやり取りを、
短いサイクルの中で何度も経験させていきます。

必ず前の図示と変えない部分も作ります。
できているという選手の感覚を保つためでもありますが、
変えない部分で、タイミングや意図を調整したり

  • このプレーでどんなアイデアを使いたいのか
  • ボールと人がどういう関係になるとチャンスが生まれるのか

を明確にするようにしています。


方法論②:図示は1分で十分な理由

戦術練習というと、
「まずしっかり説明して、理解させてから動かす」
という流れを思い浮かべることが多いかもしれません。

ただ、実際のプレーを見ていると、
戦術は“聞いてわかるもの”というより、“動いて理解していくもの”
だと感じます。

説明を長くすればするほど、
選手は「分かったつもり」になります。
けれど、コートに立った瞬間に、
その理解はあっさり崩れてしまうことが少なくありません。

だから私は、図示に時間をかけません。
1分で十分だと考えています。


長い説明が不要な理由

戦術で本当に共有したいのは、
動きの細かい順番や完成形ではありません。

大事なのは、
「このプレーで、どんなアイデアを使いたいのか」を
味方の動きから感じ取ること
です。

まずは動き方そのものでアイデアを共有する。
そして、実際にプレーしながら
「ここを合わせたいよね」という
タイミングを少しずつ作っていく

その順番の方が、
選手の理解はずっと深くなります。


「できない」からこそ、チャレンジできる

図示を短くすると、
最初はうまくいきません。
プレーが途中で止まることもたくさんあります。
ズレも多いし、失敗も出ます。
ぎこちなさも目立ちます。

でも、それでいいと思っています。

なぜなら、
みんなが「まだできない」状態だからこそ、
チャレンジしやすい空気が生まれる
からです。

  • 完成形を求められていない
  • 正解が一つに決まっていない
  • まずはやってみていい

この状態があると、
選手は動きながら考え、
味方の反応を感じ取り、
自然と「どう合わせるか」に意識が向いていきます。
そして、チームとしてチャレンジする文化を作っていくことにもなります。


図示1分が生み出すもの

図示を1分に抑えることで、

  • 説明を聞く時間より、動く時間が増える
  • 戦術が「暗記」ではなく「体感」になる
  • タイミングのズレを、チームで共有できる
  • 次の発展につなげやすくなる

こうした変化が生まれます。

だから、
1分でいいのです。

図示は“答えを与える時間”ではなく、
プレーを通して考えるための入口
そう位置づけています。


実例:BEFORE → AFTER(チームの変化)

ここまで紹介してきた
「1分図示 → 数分プレー →1分図示 → 数分プレー→1分図示 …」というサイクルを続ける中で、
チームには少しずつ、しかしはっきりとした変化が表れてきました。

BEFORE:個々は動けるが、噛み合わない

以前は、選手一人ひとりを見ると決して動けていないわけではありませんでした。
1対1や2対2の場面では、それぞれが判断し、チャレンジもできていました。

ただ、チームとして見ると、タイミングが合わず、チャンスをつぶしてしまったり、
味方の動きを無視して動いたりしていました。
例えるなら、交通整理ができておらず、交通事故が多発しているような状況です。

  • 個々は動けるが、噛み合わない
  • パス、スクリーン、カットのタイミングが合わず、チャンスがなくなる
  • 「今、何を狙っているのか」が共有されていない
  • 声掛けが抽象的で「もっと動いて」「そこじゃない」などになっている

結果として、
1対1が5か所で同時に起きているような状態になっていました。


AFTER:タイミングが合い、意図が共有される

短いサイクルで練習を重ねていくうちに、
チームのプレーは少しずつ変わっていきました。

まず変わったのは、タイミングです。

  • 見るタイミング
  • 一手先を見据えて、スクリーンに入るタイミング
  • パスを出すタイミングとボールを受けるタイミング
  • カットのタイミングとスピード

こうした細かな部分が、
言葉にしなくても合ってくる場面が増えてきました。

それと同時に、
「今、これをしたいんだな」という意図が、
プレーを通して味方に伝わるようになっていきます。

その結果、
1対1が5か所に分断された攻撃ではなく、
5人でつながりながら戦うバスケットへと変わっていきました。

さらに、発展の中で「表」と「裏」を扱ってきたことで、

  • 今は表を使いたかったのか
  • 逆を突きたかったのか
  • おとりとして使いたかったのか

といったことを、
プレー後に言語化できる選手が増えてきました。


プレー以外の部分にも広がる変化

この取り組みは、
プレーそのものだけでなく、チームの雰囲気や学び方にも影響を与えています。

まず大きかったのは、チーム内のコミュニケーションです。
単純なコミュニケーションの量がまず増えました。
3人なり、5人なりで協力しないとできない課題なので、当然ですが、
今まで声をかけてもできなかったことが自然にできるようになっています。

プレー中も、プレー後も、

  • 「今のはここを合わせたかった」
  • 「表を見せてから、次を使おう」
  • 「もっと呼んで!」

といったように、
具体的な言葉でやり取りが行われるようになりました。

また、他校の試合を見るときの視点も変わってきます。

自分たちが「表と裏」「発展」を経験しているため、

  • この動きは、次があるな
  • ここを止めたら、次はあそこが空く
  • 今のプレーは、その準備だな

といったように、
プレーの意図や次の展開を予測しながら試合を見るようになります。
これは単なる戦術理解ではなく、
状況を読む力・理解する力が育っている証拠だと感じています。


コーチのつまずきやすいポイント

最後に、同じような練習をしようとしたときに、
つまずきやすいポイントも整理しておきます。
私自身もついついやりがちな反省ポイントです。

  • 図示や説明をしすぎてしまう
  • 「できるまで」同じことを繰り返してしまう
  • 言ってできないことにストレスを感じてしまう

色々な形でチームオフェンスを経験することで、チームのタイミングが共有されていく。
このイメージをしっかり持って練習を見る必要があります。


育成年代で育てたいのは「戦術」ではなく「つながって動く力」

1対1や2対2は、バスケットにおいて欠かせない練習です。
個人の技術や判断力を伸ばすうえで、これらは確かな土台になります。

ただ、それだけでは、
チームとしてのプレーは自然には生まれてきません。

コンビネーションプレーには、
プレーのアイデアと、
それを味方とタイミングを合わせて実行する力が必要です。
そしてこの部分こそ、育成年代では特に難易度が高いところでもあります。

だから私は、
戦術を一つ完成させることよりも、
短い時間でアイデアを共有し、動きながら合わせ、発展させていくこと
を大切にしています。

図示は1分で十分。
あとはプレーの中で感じ、失敗し、ズレを修正していく。
その積み重ねが、
「今、何をしたいのか」を味方に伝え、
「次はどうするか」をチームで考えられる力につながっていきます。

その結果、
1対1が5か所で起きているバスケットから、
5人でつながって戦うバスケットへと変わっていきました。

育成年代で本当に育てたいのは、特定の戦術を完璧に遂行できる選手ではありません。
新しいアイデアが出てきても、相手の対応が変わっても、
「じゃあ次はどうする?」と前に進める選手です。

戦術は覚えるものではなく、チームとして連携するため道具です。

その感覚がチームで共有できると、バスケットの面白さが一気に跳ね上がります。
1回の練習でも、勘のいい選手はできるようになります。
3メンをアレンジするところから、ぜひ始めてみてください。


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