「伝えたのに伝わらない…」その原因は?
「ちゃんと説明したはずなのに、思ったように動かない」
「繰り返し伝えても、何度も同じミスをする」
そんな“伝わらない”悩みは、コーチにとって日常的なものです。
ただ、その原因は「言い方が悪い」「理解力がない」といった単純な話ではありません。
コーチと選手が“見ているもの”“判断している材料”が違うとしたら?
実は、この“視点のズレ”こそが、伝わらない原因になっていることが多いのです。
この記事では、育成年代のコーチが知っておきたい「ズレの構造」とその対処法を紹介します。
なぜ伝わらない?その裏にある“視点の違い”
たとえば、あなたが「もっと早く戻れ!」と選手に伝えたとします。
この言葉に込められたコーチの意図は、おそらくこうです。
- 相手が数的優位になりそうだ
- 自陣のスペースが空いている
- チーム全体のバランスを保ちたい
つまり、全体の流れや配置を俯瞰した判断に基づいた言葉です。
一方、選手はこう受け取るかもしれません。
- 「走れってこと?」
- 「自分がサボってるって怒られたのかな?」
ここにズレが生まれます。
その原因は、“見えている情報の範囲”が違うからです。
コーチは全体を見て発言し、選手は目の前の状況と自分の経験から意味を解釈する。
結果として、同じ言葉でも、コーチの意図と選手の解釈が一致しなくなるのです。
コーチと選手の「見ているもの・考えていること」の違い
次の表をご覧ください。これは、同じプレーを見ていてもコーチと選手でこんなにも視点が違う、という例です。
コーチ | 選手 | |
---|---|---|
視野 | チーム全体、相手の配置、流れ | 自分と目の前の相手 |
判断の根拠 | 戦術的意図、リスク管理 | 経験則、直感、今の身体感覚 |
優先順位 | 次のプレーの布石、チーム全体の配置 | 今このプレーを成功させること |
このように、「同じ場面を見ているようで、実は見ているものも考えていることも違う」。
このズレを認識していないと、「伝えてるのに伝わらない」状態が続いてしまいます。
ズレを埋めるための3つの対処法
1. 「何を見て、どう判断しているか」を共有する
「なぜそのプレーを選んだのか?」
「どういう状況が見えていたのか?」
練習中や振り返りの場面で、選手の判断の根拠を聞いてみましょう。
それによって、選手の“視点”や“判断材料”が明らかになります。
コーチ自身も、
- 「なぜそのプレーを指摘したのか」
- 「何を見て、それが問題だと判断したのか」
を言語化することで、プレーへの理解が深まります。
プレーヤー自身も、経験のあるコーチの視点を聞くことで、競技理解が深めることができます。
”コーチは今のプレーをどう見ているか”
コーチの近くにいると、それを直接聞けるかもしれません。
2. 言葉を“具体的”に、そして“見える化”する
たとえば「スペースを埋めろ」という指示も、曖昧なままだと伝わりません。
「どこに」「どのタイミングで」「誰に対して」など、具体的に言葉を添えることで、選手の理解が進みます。
図や映像、立ち位置を変えての説明など、言葉以外の情報も使って“見える化”していくことが効果的です。
作戦板は積極的に利用して、選手が「自分の外から見える視点」を持つこともトレーニングしましょう。
3. 普段から“視点を言語化する”習慣を持つ
ズレは、プレー中にだけ起きるものではありません。
日頃の会話や振り返りの中で、「何を見て、どう考えたか」を話す機会をつくりましょう。たとえばこんな問いかけをしてみてください。
- 「今、どこを見ていた?」
- 「なんでそのプレーを選んだ?」
- 「もし時間があったら、他にどんな選択肢があった?」
こうしたやりとりが、チーム内の“共通理解”を少しずつ育ててくれます。
この”共通理解”を増やしていくことこそが、チーム練習の大きな意図にもなります。
コーチと選手、選手同士も”視点の共有”ができているチームは、とても面白く、可能性にあふれています。
まとめ|伝わらないのではなく、「見えているものが違う」だけ
育成年代のコーチングで「伝わらない…」と感じたとき、
それは、選手の能力や意欲の問題ではなく、視点や判断材料の違いによる“ズレ”かもしれません。
ズレは避けられません。
でも、それに気づき、向き合い、埋めていくことはできます。
- 指導の意図や判断材料を丁寧に共有すること
- 言葉を具体的に伝え、“見える化”すること
- 日常から“見方”を話す文化を育てること
それが、「伝わるチーム」への一歩になります。
最後に、今日の練習からできること
・プレー後に「どこを見ていた?」と問いかけてみる
・1つの指示を“図に描いて”説明してみる
小さな実践が、チームの“共通理解”を育てていきます。
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