練習メニューは考えられるけど、なぜか練習がうまくいかない。
練習はできているのに、どこかまとまりがない…。
こんな経験はありませんか?
コーチとしてメニューを考えるとき、つい過去の経験から「このメニューにしよう」と選びがちです。
ですが、実際に指導に立つと、その練習で何を鍛えるのか、次のメニューとのつながり、練習全体のバランスなど、より多くの要素を考える必要があることに気づきます。
そして、それを選手にわかりやすく伝え、実際に動かすことまで含めて、初めて練習は機能します。
つまり、練習メニューを考える「設計力」と、それを選手に伝えて動かす「伝達力」の両方がそろってこそ、練習は効果的になります。
どんなに優れた設計でも、選手が意図を理解していなければ、形だけをなぞって動いているだけになってしまいます。
一方で、伝え方は上手でも、設計がバラバラであれば、選手の集中力は続かず、成果も出ません。
この記事では、全てのスポーツに共通する「練習メニューの作り方」と「選手への伝え方」のポイントをまとめます。
練習の質を上げたいコーチ、チームの成長を加速させたいコーチの参考になれば幸いです。
練習メニューは「設計」と「伝達」で決まる
コーチの仕事を大きく分けると、練習メニューづくりは2つのフェーズに分けられます。
設計力(考える力)
目的に沿って、効果的な練習メニューを組み立てる力。
例:試合で出た課題をもとに、必要な技術・戦術を鍛える練習を選ぶ。
伝達力(伝える力)
その練習の目的や方法を、選手に理解・実行させる力。
例:短い言葉で目的を伝える、見本を見せる、理解度を確認する。
どちらかに偏ると、次のような失敗が起こりがちです。
- 設計力だけ高い場合
…練習内容は完璧でも、選手が意図を理解しておらず効果が出ない。 - 伝達力だけ高い場合
…雰囲気は良く盛り上がるが、練習の方向性がずれて成果が出ない。
理想は、設計力と伝達力をバランスよく伸ばすこと。
このあと、それぞれの力のポイントと、両方をつなぐ工夫を紹介していきます。
練習メニューを作る力(設計力)のポイント
私もコーチになったばかりの頃、練習メニューは自分のやってきた練習を並べるだけでした。
しかし、何を鍛える練習なのかが自分でも曖昧で、1週間後の試合で同じ失敗を繰り返してしまう…。
そんなことが何度もありました。
1. ゴールを明確にする
- 「何を上達させたいのか」を明文化する
- 例:速攻強化・守備改善・連携向上など
以前、速攻強化のつもりで3メンという、パスを回しながら走ってシュートする練習があります。
しかし、とにかくゴールに向かって「走ること」だけにしてしまったため、試合では肝心のフィニッシュが決まりませんでした。
そこでゴールを「スピードに乗ったままレイアップを決める」と明確にして伝えた途端、選手の動きが変わり始めました。
2. 課題を観察から特定する
- 試合や練習映像を振り返り、チームの課題を見つける
- 主観だけでなく客観的なデータや意見も取り入れる
試合中はノートにメモを取るのがおすすめです。
選手と同じ場面を経験しているため、課題共有にうってつけです。
速攻が出ないと感じて試合映像を見返すと、走ってはいるものの、どこに走るのが効果的かの判断がありませんでした。そこでその映像を選手と共有しました。
練習でも全く意識できていなかったため、次の練習からディフェンスから速攻の組み立てのメニューを追加しました。
3. 課題克服のためのメニューを選定
- 既存の良いメニューを参考にする
- 必要ならオリジナルでアレンジ
よさそうだなと思う練習はブックマークをしたりしながら、後で見返せるようにしています。
4. 時間配分と優先順位を決める
- 1回の練習でやることを詰め込みすぎない
- 優先度の高いメニューから順に取り組んでいく
5. 他競技から学ぶ
- 状況判断や、体の使い方は他競技でも共通することが多い
- ウォーミングアップなどは、アイデアをたくさんもらえます
練習メニューを伝える力(伝達力)のポイント
1. 目的を言葉にして伝える
- 「なぜこの練習をするのか」を最初に説明
- ゲーム全体のどこの部分の練習なのか
2. 見本を見せる・デモを入れる
- 言葉だけでなく動きで示す
- 選手にやってもらうのも効果的
選手を集合させて作戦盤で説明した後、「やってみよう」と始めたものの、全く動き出しませんでした。
作戦盤上と実際のプレーがつながっておらず、練習をデモで動かして行うと、スムーズに練習が始められました。
聞くよりも見た方がいい!
3. 選手の理解度を確認する
- 練習のポイントを説明した後に、聞く
- 実際にやらせてみて、意図通りか観察
4. 集中が途切れない指示の出し方
- 指示は短く
- 動きながら修正を加える
5. 雰囲気を作る声かけ
- 拍手や声掛けはどんどん行う
- 失敗にも前向きなコメントを添える
設計力と伝達力をつなぐ3つの工夫
- 「何をやるか」より「なぜやるか」を共有する
目的を理解すれば、選手の自主性が高まる。 - 伝え方をチームの年齢やレベルに合わせる
小学生にはシンプルに、高校生には戦術や仕組みを。 - 練習後に効果を振り返る
選手から感想や意見を聞き、次回の設計に反映。
「今日初めてやった練習はどうだった?」と聞くと、「理解はできたけど、まだ考えながらしかできません。あとタイミングが合っていません」と答えました。
その答えをもとに次の練習からタイミングがお互いに認識できるよう少し変えたら、動きが全く変わりました。
よくある失敗例と改善策
- 練習が作業化する
目的を再確認し、飽きが来ないアレンジを加える
少しのアレンジをたくさんできると、意欲的にもなります - 説明が長くて動き出しが遅い
ポイントを3つ以内に絞る
できれば1つ
長くなった場合は、最後にポイントを整理 - 目的が伝わらず形だけになる
練習中も声かけで目的を思い出させる
何人かに声掛けして、目的がわからないと答えたらすぐに全員集合して確認する
まとめ|あなたはどちらのタイプ?どちらを伸ばすべきか
コーチには「考えるのが得意なタイプ」と「伝えるのが得意なタイプ」があります。
どちらも長所があり、どちらも欠かせません。
- 考えるタイプは、伝える力を磨くとメニューが生きる
- 伝えるタイプは、設計力を高めると説得力が増す
1人で両方を伸ばすのが理想ですが、スタッフやキャプテンと役割分担しても構いません。
次の練習から、小さな一歩を試してみましょう。
おすすめの書籍
・『エコロジカル・アプローチ 「教える」と「学ぶ」の価値観が劇的に変わる新しい運動学習の理論と実践』(植田文也)
選手の動きやすい環境をどう作るかに関心があるコーチにおすすめ。
練習設計の視点が大きく変わります。
・『育てる技術』(ジョン・ウッデン)
選手を導くための声かけや行動指針が具体的に書かれています。
練習の「伝達力」を高めたい方におすすめです。
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