「教えたつもりなのに伝わらない」経験、ありませんか?
「説明したのに反応がない」
「一生懸命教えたのに動きが変わらない」
そんな経験、ありませんか?
教えたはずなのに伝わらない。
理解しているはずなのに動けない。
そんな場面に、コーチとして戸惑ったことがない人はいないと思います。
でも、それはあなたの教え方が悪いわけではありません。
そもそも「教える」という行為そのものが、とても難しいことだからです。
だからこそ、教える技術と同時に「どう関わるか」「どう見せるか」「どう促すか」が重要になります。
この記事では、伝わる教え方・関わり方のヒントを3つ紹介しながら、コーチ自身のあり方についても触れていきます。
なぜ教えたことが伝わらないのか?
「しっかり教えたはずなのに、なぜか伝わらない」
それは、多くの育成現場で起きている“ごく自然なこと”です。
なぜなら、教える側と教わる側のあいだには、見えている世界の違いがあるからです。
- 経験値のギャップ
コーチにとっての当たり前は、選手にとっては当たり前ではありません。
コーチと選手では見るところも、感じていることも、技術的な理解もすべてが違います。 - 言葉と身体のズレ
選手自身の「わかる」と「できる」のあいだには、ギャップがあります。
選手としては、すぐできたりすぐに対応できたりすることを目指してプレーします。
でもコーチとしては、もう少し長い目をもって選手を見ることが必要です。
言ってすぐにできるようになるなら、たくさんのプロ選手も苦労しません。 - 選手の成長マインドセットが未熟
うまくやらなきゃ…というプレッシャーがあることを前提にしている選手もたくさんいます。
今まで、間違ったら怒られて来たり、うまくいったら誉められたりしすぎると、挑戦や失敗を避ける原因になることもあります。
コーチの目を気にしながらプレーする選手の一部は、こういったマインドセットを変えていくことこそが、必要なコーチングになります。
つまり、「伝わらないのは普通」なんです。
だからこそ、どう教えるか・どう関わるかの工夫が、指導者としての大事な役割になってきます。
このあと紹介するのは、「伝える」の精度を上げるための具体的なヒントと、
それでもうまくいかないときに立ち返れる、コーチ自身のマインドの整え方です。
👉 関連記事:選手のやる気が出ない原因はマインドセットにあった!固定マインドセットから成長マインドセットへの転換法
伝わる指導のヒント|おすすめの指導法3選
① デモンストレーションで観察力を鍛える
言葉で説明するよりも、まずは“見せる”。
デモンストレーションは、最も直接的でわかりやすい教え方です。
- 正解例と失敗例を両方見せることで、選手の観察力が育つ
- 観察→模倣→試行錯誤のサイクルが回りやすくなる
コーチが説明しすぎず、見ることで学べる“余白”を残すこともポイントです。
見本だけ見せて、「はい、やってみよう!」というのも、1回目こそ選手はぽかんとします。
2回目以降になると、待ってましたとばかりに、選手がわくわくして活動するようになります。
② 1つの声かけで1つだけ伝える
教えたいことがたくさんあると、つい「これも、あれも」と言いたくなってしまいます。
でも、頭に入るのはひとつずつ。ここは我慢です。
- 1回の声かけで伝えることは1つだけに絞る
- 「今はこれだけ意識しよう」と明確に伝える
そのシンプルさが、集中力と成功体験を引き出します。
もっとできると思っている選手には、個別に少し難しい課題を設定してあげると、誰にとってもチャレンジのある練習になります。
③ 練習を“設計”する(状況で学ばせる)
練習そのものが“コーチ”になるように、練習を作ってみましょう。
- 選手が自然と動きたくなる練習構成
- 状況の中で判断する力が育つメニュー
- 気づきや発見を促す「繰り返し型」の構造
たとえば、ルールを制限したミニゲーム、成功体験を積みやすい1対1の設計など。
エコロジカルアプローチという考え方があります。
今までの”練習”のイメージとは異なるアプローチです。
👉 関連記事:さあ、いい練習をしよう!だらだら練習から抜け出した具体例― やる気が出ない中学生チームに、コーチができたこと ―
それでもうまくいかないとき、私はこう考えています。
伝えたのに伝わらない。
そんな場面に出くわすと、コーチとして焦ったり、イライラしたりしてしまうこともあります。
伝わって当たり前ではなくて、伝わらないのが当たり前なんです。
前にうまく伝わった方法でも、メンバーが変われば響き方も変わります。
同じように言っても、同じようには伝わらない。
それが人を相手にした指導の難しさです。
そして、そこがコーチの面白いところです。
私は、そんなときこそこう考えるようにしています。
「どうやったら伝わるかなー」
「どうやったら、楽しく取り組んでくれるかなー」
イライラしても、状況は良くなりません。
だからこそ、“伝えようと工夫すること”こそがコーチの腕の見せ所なんだと思っています。
そもそも「ちゃんと教えなきゃ」と力が入ってしまうのは、
コーチが「教える責任」を強く感じているからかもしれません。
でも実際は、どれだけ教えても選手の行動をコントロールすることはできません。
プレーするのは選手自身。行動しないと上手くなれない以上、上手くなるのは選手次第、ときにはそう思うこともあります。
だからこそ、コーチができることは──
「うまくなりそうな環境」を整えていくことだと考えています。
技術だけじゃなく、心の余白を育てるような環境。
そして、選手が「やってみようかな」と思えるような雰囲気。
それがあるかどうかが、コーチとしての力量なのかもしれません。
👉 関連記事:コーチとしての心がけ|育成年代の指導で私が大切にしていること
まとめ|教えることは、伝えること以上に“関わること”
「教えるのが難しい」と感じたときこそ、コーチとしての力が試されます。
- デモで見せる
- 要点を1つに絞る
- 練習そのものを工夫する
この3つは、技術的な手法でありながらも「選手に寄り添う」関わり方でもあります。
そして、それでもうまくいかないときは、
焦らず冷静になって、コーチとしての考え方を整えることも大切な一歩です。
コーチが“伝わらない前提”で関わることで、選手も「学ぶ力」を育てていきます。
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