試合に出られない理由|コーチに“なぜ自分は出れないのか”と聞いてきた選手から学んだこと

指導の悩み

「コーチ、なぜ試合に出れないんですか?」
ある選手が、真剣な顔でそう尋ねてきました。

私は何をどこまで伝えたらいいだろう、そう考えて返答に困ってしまいました。
「足りないことはいくらでもある。まず自分で考えたらどう?」
そんな言葉が喉まで出かかりました。なぜ出られないかを考える力も、私は大事にしているからです。

でも、聞いてくるということは、それだけ悩んでいたり、手掛かりがなくて苦しい状態だということ。
「自分ではどう思ってる?」と聞き返してみました。

すると彼は、一生懸命に練習に取り組んでいること、最近シュートが入るようになってきたこと、ディフェンスも頑張っていることをアピールしてきました。
ただ、彼の口から出てきたのは「自分がどれだけ頑張っているか」だけ。
そこに「チーム」という言葉は一度もありませんでした。

そのとき私は、試合に出られる選手と出られない選手を分ける、一つの大きなポイントに気づかされました。


自分視点は大切、でもそれだけでは足りない

選手にとって「自分がどれだけ努力しているか」をアピールするのは当然です。
毎日練習に真面目に参加している。走り込みを頑張っている。
最近シュートが入るようになった。ディフェンスでも負けないように粘っている。
こうした「自分視点」の努力は間違いなく大切です。

ただし、試合に出られるかどうかは、それだけでは決まりません。
頑張りや技術の成長は必要条件ですが、それだけでは十分条件にはならないのです。


欠けていた“チーム視点”

コーチが起用を考えるときに見ているのは、選手一人の頑張りだけではありません。
チームにプラスになる選手は誰だろう?チームを助けてくれそうなのは誰だろう?
そんなことを考えています。
なので、次のような問いに答えられる選手は、大きなアドバンテージを持つことになります。

  • 今、チームが取り組んでいることは何か?
  • チームに足りない部分はどこか?
  • 自分が出たら、どうやってそこを助けられるのか?

これに答えることが「チーム視点」です。
どんなに個人が成長していてもチームに貢献することができなければ、成長だけでは試合には出られません。


出場機会を増やす選手の共通点

練習中の「反応の良さ」は、出場機会を増やすカギになっています。
練習中、「こうやってみよう」と伝えたときに、すぐに取り組もうとする選手は試合でも使いたくなります。
もっと言うとできなくても、チャレンジしているのか、たまたまではなく繰り返し取り組んでいるのか。
ここでいう反応の良さとは、ただ素直に言われたことをやればいい、というわけではありません。

「自分がやりたいこと」ではなく、
「今チームが必要としていること」を理解して実行できる姿勢として見ています。

試合中でも、タイムアウトやプレーの合間に修正を伝えることがあります。
例えば、

  • 「オフェンスリバウンドに入ってくるから、ボールを取りにいくことより、相手を抑えることを優先しよう」
  • 「キャッチした瞬間にシュートを打たれているから、ドリブルをつかせるように半歩詰めて守ろう」

こうした場面で「今チームに必要なのはこれだ」と理解し、対応できる選手は信頼されます。
練習中から試合で相手に対応したプレーを選択できるように、「今チームが必要としていること」を理解して実行できる姿勢を見ています。
その結果として、「この選手を試合に出したい」と思わせる存在になっていくのです。


コーチができる声かけ

かつての私のように「まず自分で考えろ」と突き放すだけでは、うまくいかないケースもあります。
やはり、選手が「なぜ出られないのか」と尋ねるとき、不満や疑念を抱えていることも多いからです。
そんな状態では、コーチがどれだけ説明しても耳には届きません。

だからこそ、声かけには順序が必要です。

ステップ1:まず認める

「ここを頑張ってるね」
「最近、シュートが決まるようになってきた」
変化や頑張りを具体的に伝えることが大切です。
普段から見ている成長を伝えることで、選手は安心して話を聞けるようになります。

ステップ2:選手の視点を聞く

「〇〇からはどう見えてる?」
選手自身の視点を聞き出すことで、感じている困難や不安が見えてきます。
ここで“現在地”を知ることができます。

ステップ3:チームの視点を示す

「じゃあ、今チームで大事にしていることは何だろう?」
選手にチームの視点を持たせる問いを投げることで、「自分視点」から「チーム視点」へと切り替えるきっかけになります。


まとめ

「なぜ自分は出られないのか?」
選手からそう聞かれたとき、思っていることを伝えるのは簡単ですが、それが選手の成長につながる返答になるのか、悩むのはコーチとして自然なことです。

チームを見ているコーチと自分を見ている選手では、話がかみ合わないことも想像できます。
それは、選手の保護者も同じかもしれません。
そのかみ合わない理由が「自分視点に偏っている」ことなのであれば、少しずつ「チームの視点」を学ぶことで解消していきます。
努力や成長は大切ですが、それだけでは試合に出る十分条件にはならないのです。
チームに必要なことがたまたま自分の得意なことと重なっていた場合、深く考えなくても済みますが、チームが変われば苦労することになります。
そして、カテゴリーが上がれば、チームから必要とされるプレーも変わっていきます。

試合に出られるかどうかは、“チームへの貢献” で決まります。

だからこそ、コーチは選手に問いを投げ、チーム視点を気づかせるサポートをしていくことが重要です。
それが、チームで成果を出すことができた経験につながります。
チームが、選手をただの「頑張る子」から「信頼される人」へと成長できる場になれば嬉しいですね。


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 強いチームを支えたキャプテンに共通するのは、派手さより「チームが必要とすること」をやり続ける姿勢でした。
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