厳しい指導でクレームが…コーチが気をつけるべきポイントとは

声かけ・関わり方

はじめに

私自身は、厳しいコーチです。
それは、勝つためというよりも、人として成長する過程に「厳しさ」が必要な場面があると信じているからです。

チームの一員として責任を果たすこと、自分に向き合って努力すること、できないことに挑戦すること――。
そうしたことを学ぶ場として、スポーツには「甘やかさない環境」も大切だと思っています。
もちろん、「楽しい」「嬉しい」といった経験も同じように大切です。
だからこそ、怠慢になっていたり、できることもやらなくなったり、チームへのリスペクトが欠けていたりすると、私は怒ります。
でも時には、「厳しすぎる」「怒られたくない」と受け取られ、選手が距離を取ったり、保護者に心配されたりすることもあります。

本気で育てたい。だからこそ、その「厳しさ」がきちんと届く伝え方や関係づくりが必要だと感じるようになりました
今回は、私自身の経験をもとに、「厳しい指導」を誤解なく届けるために、コーチが気をつけたいポイントをまとめてみました。


なぜ「厳しい指導」が誤解されるのか?

「伝わっているはず」という思い込み

私たちコーチは、選手のためを思って伝えている。
でも、選手が「なんでそんなに怒ってるの?」と感じていたら、指導の意図は届いていません。
たとえば「声を出せ」と言ったとき、コーチが意図しているのは「仲間との連携を高める」「自信を持ってプレーする」「チームにエネルギーを与える」などかもしれません。
でも、選手が「怒られないように何か言えばいい」としか捉えていなければ、意味がまったく噛み合っていないのです。

選手の「声を出す」と、コーチの「声を出す」が一致しているときにだけ、コーチの呼びかけは意味を持ちます。

だからこそ、ただ指示するのではなく、「なぜそれが必要なのか」「どういう状態を目指しているのか」を、丁寧に伝えることが大切です。


コーチが意識したい3つの行動

① 「伝わるまで丁寧に」コミュニケーションの回数を惜しまない

選手との信頼関係を築くうえで、一度の声かけで伝わることはほとんどありません。
伝えたつもりでも、受け手の理解はさまざま。繰り返し、少しずつ、状況を変えてでも伝える努力が必要です。
また、日常の何気ない会話や雑談の中でも、チームの目標やコーチの想いを織り交ぜておくと、「あの言葉はこういう意味だったのか」と選手の中でつながっていきます。


② 怒りは“使う”ものであって、“ぶつける”ものではない

コーチが感情を込めて話す姿は、選手の心を動かします。
本気で伝えたい想いがあるからこそ、熱量のこもった言葉や、空気を引き締める声かけが必要な場面もあります。
感情は、コーチの本気を伝えるための大切な道具です。
練習の緊張感が緩んでいるとき、集中力が欠けているとき、空気を変えるために“怒る”という手段を取ることもあるでしょう。
これは単なる叱責ではなく、練習全体の雰囲気を整える“演出”でもあります。

ただし、その怒りが無意識で、習慣のように毎回ぶつけられているとしたら要注意です。
選手が「怒られたからやる」「怒られないためにやる」ようになると、行動の軸はコーチの評価や機嫌になってしまいます。
その状態では、自分で考え、自分で決断し、自分で責任を持つ“自立”は育ちません。

育てるために厳しくしている――そう思っていても、厳しいことで育ちを妨げている可能性もあるのです。

だからこそ、怒るなら意図して怒る。
「何のために、どこまで伝えるか」「どこで収めるか」までを考えて、“感情”を“技術”として使う視点が必要です。


③ 厳しさは“土台”がなければ成立しない

どれだけ正しいことを言っていても、選手との信頼関係がなければ、その言葉は届きません。
むしろ、厳しい言葉ほど関係性という土台の上に置かれていなければ、逆効果になります。

選手にとって厳しい指導とは、「コーチの本気が向けられる瞬間」です。
でもその前提として、「この人は自分のことを見てくれている」「自分の成長を願っている」と感じられていなければ、厳しさはただの攻撃に聞こえます。

厳しいことを言っても受け止めてもらえる関係。
それが、コーチングの土台です。

日頃から選手の話を聴く。小さな成長を認める。冗談を言い合える空気も大切にする。
そういった関わりの積み重ねが、「本気の厳しさ」を受け入れるための余白をつくってくれます。
厳しさを恐れずに伝えるためには、信頼の貯金が必要です。
言葉の強さを支えてくれるのは、コーチとしての日々の関わりそのものです。


まとめ:厳しさは「伝え方」で力に変わる

厳しさは、悪ではありません。
本気で選手と向き合い、成長を促そうとする姿勢の中に、厳しさが含まれるのは自然なことです。ただし、それがきちんと選手に伝わっていなければ、意味を持ちません。
むしろ、「怖い」「怒られたくない」と感じさせてしまうなら、逆効果になります。

だからこそ、「なぜ伝えるのか」「どう伝えるのか」「どんな関係性の中で伝えるのか」。
コーチである私たちが、そこを丁寧に見つめ直すことが、より良い指導につながっていきます。


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