「コーチ、うちの子の出場時間、もう少し伸ばせませんか?」
——練習試合後に話しかけられて、反射的に身構えてしまう。
『来た…!』と思いつつ、笑顔で対応する。
とりあえず息を吸って、表情だけは崩さない。
でも心の中は、「何を答えたらいいだろう?」とぐるぐる。
どんなに丁寧に指導しても、どこかで必ず起きる“保護者対応”。
これは、技術指導よりもコーチを疲れさせる場面かもしれません。
でも、クレームは敵意じゃなく“信頼のチャンス”です。
うまく対応できれば、チーム全体が強くなる。
この記事では、保護者対応に疲れたコーチへ向けて、
「現場で心が軽くなる3つのヒント」をお届けします。
クレームは“悪意”じゃなく“心配”や“関心”の裏返し
クレームは、実は「信頼があるからこそ」直接コーチに届きます。
本当に信用されてなかったら、何も言われません。
静かに、チームを離れてしまうこともあります。
あるいは、気づかないところで不満が広がることもあります。
つまり、
「なんでうちの子、出られないんですか?」は
「信じたいけど不安なんです」というサインです。
最初に返すべきは正論じゃなくて、“安心”。
「そう感じられたんですね、ありがとうございます。」
話を聞くだけで、7割は落ち着きます。
人は“自分の声を聞いてくれた”と感じた瞬間、落ち着くからです。
気持ちを整える3ステップ
「なんでそんな言い方を…」と思っても、反応してしまうと泥沼になります。
そして、自分が嫌だなと思っていると、その気持ちは相手にも伝わります。
だからこそ、クレーム対応は瞬発力より持久力。
聞く(ただ聞く)
途中で反論しない。相槌だけでOK。
「なるほど」「そう感じられたんですね」が正解です。
まず、聞いて保護者の気持ちと、自分の気持ちを落ち着かせる時間が必要です。
整理する(頭の中で仕分け)
言葉の中から「事実」と「気持ち」を分ける。
事実=対応する/気持ち=共感する。
返す(その場で結論を出さない)
「確認してからお伝えします」と言って、一度クールダウン。
感情的にならず、できることを整理してから返答をするようにしましょう。
クレーム対応は、言い合いになると保護者もコーチも引くにひけなくなります。
いつでもコーチが引けるように、冷静に整理していく方が落ち着きます。
チームの責任者であるコーチと、その子の責任者である保護者がコミュニケーションを取れる――
そのこと自体が、とても大事なことです。
事前情報でクレームを防ぐ
保護者クレームの8割は、情報不足。
たとえば「試合に出られない理由」「遅刻の扱い」「練習方針」。
これらを“後から説明”するものではなく、事前に伝えることが大切です。
だからこそ、「前もって伝える」ことが必要になります。
方針(情報)の共有 = 保護者の理解度の向上 = クレームの予防線
「出場基準は技術だけじゃなく、練習態度・チームへの貢献も含みます」
これを保護者会で伝えておくだけで、わからないことによる問い合わせがなくなります。
「子どもの成長を促していく」という同じ方向をコーチも保護者も見ているので、“先に理解し合う”準備は必須になります。
選手とコーチ、スタッフだけのチームではなく、保護者や地域もチームになれるよう、チームの方針のチームの方針を積極的に共有することで、保護者対応の時間を減らせます。
コーチが一番やっちゃいけない対応
それは、“スルー”と“防御”。
- 「そういうのはこちらで決めてます」
- 「チーム方針です」
- 「保護者に口出ししないでください」
こう返すと、相手は「話してもムダだ」と感じ、不安が大きくなります。
次に待っているのは、こちらには言ってこなくなり、裏であることないことが回ることになります。
今はSNSもあるので、良いことも悪いことも以前の倍以上のスピードで広がります。
「クレームがきた」と反射的に思ってしまうと、建設的な意見や感謝の声掛けにも身構えることになります。
もしかしたら、「チームが良い方向に進むためのお手伝いの声掛けかもしれない」
そう思って聞くと、たくさんのことが見えてくることもあります。
どんな申し出かは聞いてみなければわからず、それをどう受け取るかは、コーチの心がけ次第です。
クレームを生かす
クレームを言ってくる人ほど、関わりたい熱量がある。
放っておけないタイプ。
彼らを味方にできたら、最強のサポーターになります。
たとえば、チームの手伝いや配信をお願いしてみる。
「見守り役」から「共に育てる役」に変わる瞬間です。
試合ではなく、練習を見てもらうことから始めましょう。
練習という日常を見てもらうことで、保護者の情報不足が一気になくなります。
そもそも練習を見ているコーチと、練習を見ていない保護者では判断が違って当たり前です。
お互いの視点がそろうと、「なるほど、コーチが言っていたのはこれだったのか」と納得感が生まれます。
ぜひ、練習を見に来てもらいましょう。
信頼は、“説明”ではなく“共働”で育つ。
ただ、どんなに誠実にやっても、伝わらないこともあります。
「ちょっとそれは理不尽では?」というクレームを私も受けたことがあります。
その中にあるヒントや、自分に足りないところを探す。
クレームを受け止めようとしている時点で、もう十分、素晴らしいコーチです。
まとめ
保護者対応は、避けて通れないコーチの仕事のひとつです。
けれど、それを“戦う相手”として見るか、“協働する仲間”として見るか。
“クレーム”として見るか、“チームが良い方向に進むためのお手伝いの声掛け”として見るかで、見える景色は大きく変わります。
保護者の声は、コーチを責める言葉ではなく、「子どもを思う声」。
うまく受け止めれば、それはチームを強くする貴重な情報になります。
完璧に対応しようとしなくて大丈夫です。
誠実に耳を傾け、自分のペースで整理し、必要があれば改めて伝え直す。
それだけで、十分に“信頼を育てている”ことになります。
もし、またしんどくなったら思い出してください。
「直接話をしてくれるのは、信頼されている証」
だと考えてみてください。
その関係性を、焦らず、少しずつ育てていきましょう。
それが、コーチとしての一番の力になります。
おすすめ書籍
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※読んでくださる方の学びを深めるため、信頼できる書籍のみを紹介しています。
『自分の小さな「箱」から脱出する方法』(アービンジャー・インスティチュート)
「相手を敵に見てしまう心理」を扱った名著。
クレーム対応で心がざらついたとき、視点をリセットする助けになります。
「あの人が悪い」ではなく、「どうして自分はそう見えているのか?」
そう考えるだけで、関係性のループを断ち切れます。
『嫌われる勇気』(岸見一郎・古賀史健)
相手をコントロールしない関係性を学ぶのにぴったり。
「他者の課題に踏み込みすぎない」というアドラー心理学の考え方が、
保護者対応の“心の線引き”に直結します。
クレームのすべてを解決する必要はありません。
自分の課題と、相手の課題を分けて考える。
それだけで、心がかなり軽くなります。
『コーチングとは信じること』(エディー・ジョーンズ)
「信頼の築き方」や「対話の本質」を学ぶ一冊。
コーチが“自分の信念を持ちながら人と関わる姿勢”を、
保護者対応にも応用できます。
「相手を説得するより、信じる」
その姿勢が伝われば、保護者との関係も少しずつ変わっていきます。
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