考え方①|差を活かしてチームを育てる
どのタイミングでプレーヤーとして伸びるかは人それぞれです。
なので差があるのは、むしろ自然なことです。
特に育成年代の部活動では、強豪校でない限り、初心者から経験の豊富な選手までが一緒に練習します。
だからこそ、コーチに求められるのは——
差を活かしてチームを育てること。
この視点を持てると、練習も試合もチームづくりも、まったく違って見えてきます。
考え方②|育てることで勝ちに近づくサイクルを作る
チームの目標が「大会でベスト〇」など勝利を掲げている場合、
練習試合でも、一定勝ちにこだわる必要があります。
勝ち方自体を学んでいく必要もあります。
実力のある上級生にはチームを引っ張り、ゲームを組み立てる役割があり、
十分なプレータイムを確保することも大切です。
一方で、下級生や伸び盛りの選手にも、経験を積ませて伸ばす機会を与えます。
「勝つこと」と「育てること」どちらも簡単ではありません。
そしてそんな中で大切なのは、どちらかを選ぶのではなく
勝つために育てる。育てることで勝ちに近づく。という循環をつくること。
私は、短い時間であっても試合に出場する機会を作っています。
選手の側から考えても、準備ができているのに、チャンスをつかむ機会があたえられないのは納得できません。
だから、来ている選手全員が出場します。
また、練習のターゲットは基本的に下級生に当て、
「練習でうまくなって、試合で貢献する」流れを意識しています。
考え方③|誰にでも貢献できることがある
「全員が前向きになる方法がほしい」
「もっと主体的になってほしい」
「実力差があっても、みんなができることはないか」
そう考えるとき、コーチとして意識しているのは“チームへの貢献”です。
人はつい、自分を中心に考えてしまいます。
自分が活躍できたか。
プレータイムをもらえたか。
得点できたか。
それだけでは、どうしてもチームから気持ちが離れ、バラバラになってしまう。
チームの結果に対しても無関心になってしまいます。
「よりチームに貢献できるようになる」
この視点であれば、誰もがチームの一員として努力できます。
マネジメント、サポート、声かけ、用具の準備——
どんな立場でも“貢献”はできる。
コーチやマネージャーも同じように考えることができる。
コーチの役目は、そうした貢献を見逃さず、言葉にして伝えることです。
「今のよく気が付いてくれた。ありがとう」
そうやって小さな貢献を拾い上げることができれば、チームの雰囲気は自然と前向きになります。
実践①|実力があるなら、よりチームに貢献する
練習では、上級生から積極的に下級生にアプローチするように促しています。
自分のことだけでなく、チームに与えられる選手を目指します。
- 上級生が下級生に技術を教える
- 練習メニューの一部を上級生に任せる
- 「教える側」「学ぶ側」を交互に体験させる
教えることは、理解を深める最良の方法です。
言葉にして伝える中で、自分の考えやプレーへの理解が深まります。
上級生は教える中で自分の技術を再確認し、
下級生にも「自分もいつか教える側になる」という目標ができます。
また、上級生には質問をするように促しています。
まず、下級生の話を聞くこと。
そして何を質問すれば、下級生の現状を把握できて、次のステップに進めるのかを考える。
上級生にとっても、いい学びになります。
この“学びの循環”が、チームへの貢献となり、チームのエネルギーになっていきます。
実践②|チームをまとめる仕組みを作る
実力差や学年差が「溝」になってしまうことがあります。
学年ごとに固まって行動したり、
下級生が意見を言いにくくなったり、
上級生が“教える側”になりすぎて距離ができたり。
そうなると、学年や実力ごとにチームができてしまい、
全体の目標に対して全員が動きづらくなります。
チームがバラバラになることを防ぐために、日常的な関係づくりを意識しています。
- チームでご飯に行くときには、学年を混ぜて座る
- ミーティングでは違う学年同士で話ができるようにグループを作る
- 「自分が面倒を見たい後輩」を一人決めて関わる
お互いがどんな人なのかを知らないと、本音では話せません。
チーム全体でも今までの自分をお互いに話す機会を設けたり、
バスケットへの想いを話したりする場を設けています。
人を知ることが、チームを育てる第一歩です。
練習を量を増やすことが力になる思いがちですが、
お互いに何を考えているのかがわからない、表面的なやり取りしかできない状況では、プレーもよくなっていきません。
実践③|今日からできること
- コーチが何も言わず、上級生が「教えるメニュー」を1つ設定してみる 練習を上級生が下級生に教える時間を設定。
- 「関わり方」をデザインする 今日いつものペアではなく、チーム内で学年をまたいだペアやグループで練習をさせる。
- 「貢献」を言葉にする 試合や練習後、「今日のチームに貢献してくれたこと」を1人に伝える。
教えることが、理解と責任を育てます。
練習でも雑談でも、学年を越えた会話が信頼を作っていきます。
まとめ|差を活かすチームづくり
実力差や学年差は、なくなるものではありません。
その差の中で、上級生はチームへの新たな貢献の仕方を学び、下級生は挑戦の仕方を学ぶ。
そして、コーチはその関係が循環するよう環境を整える。
「勝つこと」も「育てること」も、チームの中でつながっています。
差があるからこそ、人が関わり、成長し、チームは強くなっていく。
うまくいかない関係も、実力差も、成長途中の証です。
差を否定せず、「この差をどう使おうか?」と考え始めたとき、
チームは確実に前に進みます。
今日の練習で、ひとつその差を活かす工夫をしてみましょう。
関連書籍
『あなたのチームは、機能していますか?』(パトリック・レンシオーニ)
チームの“機能不全”を解き明かす一冊。
信頼・衝突・責任・結果という構造を理解することで、学年差や実力差を超えた関係づくりのヒントが見えてきます。
『育てる技術』(ジョン・ウッデン)
名将ウッデンの指導哲学。
「勝利よりも成長を重んじる」姿勢は、差を活かしてチームを育てるコーチングの土台になります。
『アウトプット大全』(樺沢紫苑)
教える・話す・書くことで学びが深まることを具体的に示した良書。
上級生が下級生に教える“学びの循環”をつくる実践のヒントになります。
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